インタビュー
ケトン体と「MCT」
脳の代替エネルギー
として
(2013.12.17 中鎖脂肪酸シンポジウムでのご講演より)
医学博士 メアリー・T・ニューポート Mary T. Newport, M.D.
中鎖脂肪酸を含むココナッツオイルの摂取により、夫のアルツハイマー病の症状が改善した経験をテーマにした『Alzheimer's Disease:What If There Was a Cure?』の著者メアリー・T・ニューポート先生。2013年12月に東京で開催されたMCT研究会主催の中鎖脂肪酸シンポジウムにおいて、ニューポート先生から中鎖脂肪酸の作用とその社会的な意義についてご講演がありました。その一部をご紹介します。(2014.9.29)
※一般に市販されている中鎖脂肪酸含有の健康オイルは、中鎖脂肪酸含有率11%程度であり、健康オイルにより摂取できる中鎖脂肪酸の量と、上記研究の中鎖脂肪酸の摂取量とは異なります。
※中鎖脂肪酸の適正な摂取量は研究途上であり、まだ分かっていません。また、アルツハイマー病を含む疾病の治療については、必ず医師にご相談ください。
※MCT(Medium Chain Triglyceride)とは中鎖脂肪酸油のことです。
インタビュー
夫のアルツハイマー病発病が、すべてのきっかけに。
- そもそも、小児科医をしていた私がアルツハイマー病について研究をはじめたきっかけは、夫スティーブがアルツハイマー病と診断されたことでした。
スティーブは2001年、51歳のときに発症しました。その後記憶障害が進み、2005年から薬物治療をはじめました。2008年には手やあごの震えが起こり、走れなくなり、文字が波打って見える視覚障害も発生するなど、症状が急速に悪化しました。
私は、少しでも進行を遅らせようと、新薬の治験に望みを託し、探しはじめました。
しかし治験の多くは軽度から中等度の患者さんが対象とされており、スティーブは症状がかなり進行していたため、参加資格を得ることができませんでした。
中鎖脂肪酸の摂取で病状に変化が見られてきた。
- 対応策が限られた中、偶然見つけたのが、ある医療用食品のプレスリリースでした。その内容では、これまでの治験でアルツハイマー病患者の約半数が改善したと記載されており、その主な有効成分が「MCT(中鎖脂肪酸)」だったのです。
そこで、薬物治療を続けながら、中鎖脂肪酸を含む油であるココナッツオイルを、毎日少なくとも大さじ2杯半(約33g)スティーブに食べさせることにしました。摂取をはじめると、目に見える変化がすぐに表れてきました。スティーブの手やあごの震えはなくなり、顔には生気が表れ、ユーモアのセンスが戻り、会話が弾むような変化が見られたのです。
その経過を端的に表しているのが、夫が描いた時計の絵です。ココナッツオイルの摂取をはじめる前日に描いた絵は、時計に見えません。しかしその2週間後には格段に進歩した時計を描き、37日後にはさらに時計らしく描けるようになりました。
一般の方からも、同様の変化の声が届く。
- この経験を基に2008年に執筆したレポートが新聞で紹介されたことをきっかけに、インターネットで世界中に情報が広がり、同じ悩みを持つ多くの人たちが食事に中鎖脂肪酸を取り入れてくれました。
そして、その方々から報告の手紙をいただきました。それをまとめた結果、91%が症状の改善を感じ、59%が認知や記憶、42%が行動面、35%が言語能力の改善を感じたとのことでした。この結果が全ての方に当てはまるとは断言できませんが、経験のレベルで中鎖脂肪酸摂取による改善を実感している人は、決して少なくないことがわかります。
食生活に中鎖脂肪酸を取り入れることが、
アルツハイマー病の予防につながる可能性
- スティーブは、MCTオイルとココナッツオイルを4:3の割合で混合したオイルを食べていました。予防のためにこれからはじめようと考えているのであれば、少量から始めて、ゆっくり増やしていくとよいと思います。脳での生理学的変化や機能低下は、アルツハイマー病の症状が現れる10~20年前から始まっています。ですから、私は自分の経験を踏まえて、できるだけ早い段階から中鎖脂肪酸の摂取をスタートし、できれば毎日食べ続けることが重要だと考えます。アルツハイマー病は発症を5年遅らせることができれば、患者数は半減するという指摘もあります。
中鎖脂肪酸は母乳や食品に含まれる成分として長い間食べられてきました。中鎖脂肪酸を含む食品を習慣的に日頃の食生活に取り入れ、脳のエネルギー不足を補うことで、アルツハイマー病の予防に役立つのではないかと思います。
※一般に市販されている中鎖脂肪酸含有の健康オイルは、中鎖脂肪酸含有率11%程度であり、健康オイルにより摂取できる中鎖脂肪酸の量と、上記研究の中鎖脂肪酸の摂取量とは異なります。
※MCTの適正な摂取量は研究途上であり、まだ分かっていません。また、アルツハイマー病を含む疾病の治療については、必ず医師にご相談ください。
Mary T. Newport, M.D.
メアリー・T・ニューポート(医学博士)
- オハイオ州シンシナティで育ち、シンシナティ大学医学部を1978年に卒業。同地の小児病院で小児科の研修を受け、サウスカロライナ州チャールストンの大学付属病院で特別研究員として新生児学を修める。1983年にフロリダへ移住。タンパベイ地区の2か所の新生児集中治療室の医長として診療を手掛けた。夫スティーブ・ニューポートとは1972年に結婚し、娘ふたり、孫ひとりがいる。2008年に「What If There Was a Cure for Alzheimer’s Disease and No One Knew?(アルツハイマー病の治療法があるのに、誰もそれを知らないとしたら?)」と題するレポートを執筆。それが世界中に広まり、ギリシャで開かれた2010年アルツハイマー病国際会議での講演のテーマとなっただけでなく、著書『Alzheimer's Disease:What If There Was a Cure?』のテーマにもなった。