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インタビュー

最長寿国・日本
における油脂の役割

東洋大学 食環境科学部 健康栄養学科 教授 近藤和雄

世界の最長寿国である日本ですが、その食生活は、欧米化が進んでいると言われています。そうしたなか、食物と人との関わりに着目し、油脂と動脈硬化をはじめとする血管病の観点から研究している近藤和雄先生より、最長寿国・日本の課題の一つである認知症と食事に含まれる脂質・脂肪酸との関係について、お話をうかがいました。(2015.3.31 インタビュー)

インタビュー

世界の最長寿国、日本。その食生活と長寿の課題とは

私は、これまでの平均的な日本人の食生活は決して間違っていなかったと考えています。その証拠の一つは、日本が男女合わせて世界の最長寿国であることです。もう一つは、日本は世界の中で心臓病がもっとも少ない国であることです。日本は、先進諸国の中で10年以上虚血性心疾患の最も少ない国であり続けています。私自身は、食物と人体の関わりをテーマに心筋梗塞、脳梗塞をおこす動脈硬化の予防を念頭において、応用研究を主体とした研究活動を行ってきましたが、虚血性疾患と呼ばれる脳や心臓の血液の流れが悪くなる病気の発生も日本は非常に少ないのです。しかし、長寿が達成されたことで、日本では新たな課題が浮かび上がってきました。その一つに認知症があります。
介護が必要な方は年々増え続けており、その問題を社会全体で支える仕組みとして平成12年(2000年)4月1日から介護保険制度が始まりました。その介護状態に至る原因では1/4ほどが脳血管疾患であることが国の調査で明らかになっています。この中には、先ほど話題に挙げた認知症を原因として介護に至る方が1/4ほどいるのですが、その1/3には血管障害が生じています。また、日本人の亡くなる原因をみると、およそ1/4は血管の病気である動脈硬化性疾患です。つまり、高齢化が進む中で、健康寿命(※)を長く保てず認知症など要介護状態になる、あるいは寿命を短くしてしまう疾患となる原因として、血管の病気はかなり関係があるということです。現在、健康寿命と寿命との間には10年ほどの期間があります(図1)ので、それを短くすることも重要です。そこで、日本の食生活にはいくつか対策が必要になるのです。
※健康寿命:自立した生活ができる期間のことを指す。世界保健機関(WHO)が2000年に提唱した。

血管の病気と、「あぶら」の食べ方とのつながり

日本では、食の欧米化が進んでいると久しく言われていて、欧米で行われた研究結果を目にする機会も多いと思います。欧米では過去にカロリー全体の4割を「あぶら」から摂っていて、「あぶら」の摂りすぎを改めるべきとの議論が続いていますので、それを聞いた日本の人は同じように「あぶら」を控えようと気をつけるようになります。また、欧米では日本の3倍以上の方が血管の病気である動脈硬化を発症し、日本も同じように増えてくると言われていますので、その動脈硬化と深く関わりのある「あぶら」の栄養成分は日本でも注目されてきました。
動脈硬化を起こす原因として血液中のコレステロールが多いことがあるといわれており、コレステロールを増やす犯人は飽和脂肪酸ではないか、ということと、血液中のコレステロールを減らす作用のあるリノール酸を摂取するのがいいのではないかと言われました。次に、動脈硬化が引き金となって起こる虚血性疾患の発症を抑えることが魚のあぶらでできることがわかってくると、EPAやDHAといった成分が注目されました。しばらくすると、リノール酸やEPA・DHAなどの多価不飽和脂肪酸は酸化されやすいと言われるようになり、コレステロールが増えづらくて酸化にも強い「あぶら」があるということから、地中海式食事で有名なオリーブ油に含まれる一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が脚光を浴びるようになりました(図2)。しかし、結局のところ、どの脂肪酸も食べなければ良い、あるいはたくさん食べれば良い、というものはなく、それぞれに適切な量があると言ってよいでしょう。

日本の食の欧米化が進んでも、
「あぶら」の一日の摂取量はほぼ横ばい

では、食の欧米化が進んだといわれる日本人の栄養摂取状況はどうなっているでしょうか。これは、毎年11月頃に国が行っている全国規模の食事摂取調査の結果を年次推移で示したものです(図3)。じつは、「あぶら」の一日の摂取量は欧米ほど増えていません。20歳以上の男性でも、「あぶら」の摂取量はおよそ60gでカロリー全体の25%でした(平成25年調査)。欧米で同じような調査が行われていますが、米国では一日の「あぶら」の摂取量は、およそ90gでカロリー全体の33%(20歳以上の男性の平均値、2007-2010年調査)、英国でも77g、全体の35%(19-64歳の男性の平均値、2008-2012年調査)と日本より多いことがわかります。図3でも、日本ではカロリー全体の中で「あぶら」を食べている比率は25-6%で1985年からほぼ横ばいです。また、総カロリーは1975年を境に少し減ってきているような状況なのです。

世界は日本の食生活を見習っている。
もっと自信を持っていい!

私は、平均的な日本人の食事は非常に良いバランスになっていると感じており、一部の偏った食生活の人をどのようにして平均的な人に近づけるかが課題であると考えています。最初にお話ししたように、日本は世界における最長寿国なのです。一方で、欧米では長年の健康推進運動の成果も徐々に上がり、「あぶら」の摂取量や課題となっている虚血性心疾患の発症は徐々に減少してきています。しかしこの近年の状況でも、発症による死亡率は依然として世界で日本が一番低く推移しています(図4)。したがって食事については、欧米を見習うのではなく、私たちは日本人の食生活のいいところを再認識するべきだと考えています。

認知症のリスクを下げるために気を付けることは何か。

日本の食事は世界に誇るものであると分かったところで、最初の課題に戻りましょう。日本の長寿で大きな課題の一つとなる「認知症」の最大のリスク因子は何でしょう?じつは、「加齢」つまり歳を取ること、と言われています。認知症になるリスクは、ある資料によると、85~89歳で4割、95歳以上で8割、と上昇しているのです(図5)。世界一の長寿国である日本だからこそ直面している課題だと言えそうです。
加齢を防ぐことは無理ですから、その他のことで認知症のリスクを減らすことを考えます。生活習慣病が進行すると、血液中の糖や脂質が増え、血圧も上昇して、動脈硬化など血管の病気のリスクが高くなりますし、血中コレステロールが高すぎたり、糖尿病になったりすると、認知症のリスクを高めると言われていて、注意が必要です。さらに、これらの生活習慣病の原因には、内臓脂肪の増えすぎがあります。したがって、生活習慣病に気を付けることや肥満の解消などは認知症の発症リスクを下げることになります。太りぎみの方はカロリーを控えるだけでなく、ふだん食べる「あぶら」を脂肪のつきにくい効果がトクホとして認められた、中鎖脂肪酸を含むあぶらにすることもよいでしょう。国が行った認知症の研究では、大豆製品と豆腐、緑黄色野菜、淡色野菜、藻類、牛乳・乳製品をしっかり食べる人では、あまり食べない人と比べて、認知症を発症するリスクが少ないことが明らかになっています。
軽度の認知症罹患者においても、「1日に野菜を3回、魚と果物を1回食べ、甘いものとカロリーの制限をする」といった食事習慣を守らせたところ、認知症が2年半にわたり進行しなかったという結果も得られています。また、認知症の薬は数種類ありますが、どれも認知症を治す薬ではなく、進行を抑え、遅らせる作用があるものです。いずれにせよ、認知症では発症させないことや早期に治療を開始して進行させないことが非常に重要であることがわかります。

私が考える、日本の食生活と「あぶら」の食べ方。

わたしたち日本人は今の食習慣や生活習慣を過大に悲観することなく、“ちょっと気をつける”ことが大事ではないでしょうか。では、どのように気をつけるのが良いかというと、先ほどの日本人の栄養摂取状況や国で行われた認知症の研究からお分かり頂けるように、平均的な日本人の食生活や生活習慣に近づけ、いろいろな食材をとることが重要です。また、太り気味の中高年では、「しっかりと動いて、カロリーをちょっと控える」ことが健康維持や認知症予防に良いと考えます。一方、高齢者の方は「ちょっと運動して、しっかりと食べる(たんぱく質やあぶらなどのカロリーをとる)」ことをおすすめしたいと思います。
また、「あぶら」を研究する世界の科学者の間では、日々いろいろな「あぶら」の研究結果が公表され、理解が深まってきています。近年、海外では、MCTの継続摂取により、アルツハイマー型認知症罹患者の認知機能が改善する結果が示されたり、認知症罹患者がMCTを含むあぶらの一つであるココナッツオイルを摂取し、症状が改善した事例が多数紹介されたりして、注目が集まっています。このMCTは、脳でエネルギーとして利用できるケトン体になりやすく、ブドウ糖が脳で利用されづらくなっているアルツハイマー型認知症罹患者に適したエネルギー源であることが知られています。このように、認知症との関連で、MCTは非常に注目されているのです。

近藤和雄 先生 (こんどう・かずお)

東洋大学 食環境科学部 健康栄養学科 教授
同大学 ライフイノベーション研究所 所長

1979年東京慈恵会医科大学卒業。メルボルンのベイカー医学研究所へ留学。帰国後、防衛医科大学校病院講師(第一内科)、国立健康・栄養研究所臨床栄養部室長を経て、1999年、お茶の水女子大学教授。2015年より現職。
日本動脈硬化学会評議員、日本栄養・食糧学会元会長、日本臨床栄養学会理事、日本肥満学会評議員、日本栄養改善学会評議員、日本未病システム学会理事、日本機能性食品医用学会理事。

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